16.タンパク質の一斉変異の必然性

 

 タンパク質の改変に関する定説への疑問

 私は生物が過酷な環境へ進出する場合、ある特定の機能性タンパク質が改変すれば、新しい環境に適応できたとする考えに疑問を抱く。この考えでは、もしタンパク質の一つでもアミノ酸残基の変異が起こらないとか、適応が著しく遅れるようなことが生じた場合、生物自体がその環境で生存できなくなることも大いにあり得ると予想されるからである。それは生物の進化の上でも大きな支障となる。私は、環境の変化は特定のタンパク質ばかりでなく、他のすべてのタンパク質にも影響を与えるのではないかと考えている。生物が新しい環境に適応するためには、その生物すべてのタンパク質が、同時並行的に一斉に改変するという原理が働くのではないか。

 先に述べたように、地球の多様な環境を経験した短鎖ペプチド複合体のようなタンパク性物質は、いずれの環境にも適応できるように、構造や機能に必須なアミノ酸残基をわずかに変異するだけで、著しい環境変化に適応することができるという構築原理を獲得していったと考えられる。物質代謝系、エネルギー獲得系や遺伝装置、その他の細胞構造複合体などを構成するすべてのタンパク質が、それらのアミノ酸組成を最小限に変化させることによって、新しい環境に適応する。そこに、タンパク質をコードするすべての遺伝子の変異を、同時並行的に行うという原理が確立されていったと考えている。
 

メカニズムの内臓

 しかし、従来の遺伝子の重複とそれに伴う突然変異による新規タンパク質の創生説では、遺伝子の変異が一斉に起こるという偶然性の確率は、全くゼロに等しい。とすれば、短鎖ペプチド構成体の集積体であるタンパク質構造に、新しい環境変化に適応できる何らかのメカニズムが内蔵されているのかもしれない。想定されるメカニズムのひとつとして、先に新規タンパク質の創生の項で述べた“個別新規RNA獲得装置(仮称)”をあげておく。その内部に、すべてのタンパク質のアミノ酸残基の変異が、波状的に起きる原理が存在する可能性は考えられないだろうか。仮に、その原理が原始前生物環境で獲得され、生命誕生と共に生物全体に共有され受け継がれたとすれば、遺伝子の一斉変異も説明がつくだろう。もちろん、これは私の推論の域を超えるものではないが。

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