17.タンパク質に関する諸考察

 本題からやや離れるが、ここではタンパク質に関して、今現在私が考えている二つのことについて書きとめておきたい。
 

タンパク質の構築原理

 まず、一つ目。タンパク質は生物進化に伴って、これまでの自らの構築原理を見直し、独自の原理を獲得したのだろうか。私の考えは、否である。私は、タンパク質は原始前生物環境での短鎖ペプチドの出現から現存細胞に至るまで、同じ構築原理に基づいて進化を続けていると考えており、その根拠にしているのが、リボソームを構成するサブユニットである。リボソームのサブユニットは、真核生物では原核生物よりも十数個増加していることが確認されている。しかし、その増加した真核生物のサブユニットの構造をみても、原核生物のそれとは特徴的な構造的違いは全くないし、単に同じような構造のサブユニットの数が増えただけで、質的変化は全く見られない。原核細胞から真核細胞という個体の形態や細胞内器官が大きく変化しているにもかかわらず、タンパク質構造に真核生物特有の構造的特徴は全くなく、生物が進化する前のタンパク質をそのまま引き継いで使用しているのである。これは即ち、増加したサブユニットの構築原理に変化がなく、僅かなアミノ酸残基の変異の蓄積で、立体構造や機能の変化がもたらされ生物の多様性が増幅されたことを示唆している。一方、生物が生存のために新しい環境に短期間に適応することが必須である場合、通説では、遺伝子が変異して新規タンパク質が創生されるといわれるが、果たして遺伝子の変異だけで、本当にそんなことが成し遂げられるのだろうか。

 私が考えているタンパク質の起源は、原始前生物環境での短鎖ペプチド複合体であり、それは限られた種類の短鎖ペプチド構成体が「短鎖ペプチド複合体獲得装置(仮称)」を経て、個別短鎖ペプチド複合体を形成し、進化したと推測する。私は、タンパク質の構築原理は、その装置でほぼ確立されたと考えており、いわばタンパク質は、小さなペプチド構成体の積み木細工部品が多数組み合わさってできたものとしてとらえられる。そして、天然タンパク質の創生においても、この短鎖ペプチド複合体創生原理がその根底にあるのではと推測する。さらに、小さな部品が新しい部品に置き換わった場合、そのタンパク質が新しい機能をもつ可能性も考えられる。また、それに対応して、遺伝子も短鎖ペプチドをコードする塩基配列単位で構成され、小さな部品に分かれているのではないかとも思う。これは、同じ機能をもつタンパク質をコードする遺伝子が種間で塩基配列を比較すると、数個から数十個のアミノ酸レベルで付加・挿入や欠損が頻繁に観察されることから、あり得ないことではないと考えている。

 次に、タンパク質に関して私が考えていることの二つ目。タンパク質を構成するアミノ酸が20種存在するとして、タンパク質の分子量が平均4万であれば、可能なタンパク質の分子種は20400種類という天文学的な数になるという。それはあまりにも膨大な数で、これらのタンパク質を毎秒一分子ずつ、地球上に生命が誕生してから現在にいたるまで、点検し続けたとしても、まだほとんど終わっていないという計算になる。つまり、地球上での「自然はタンパク質工学の実験を終えていない」という結論になるという。
 

新規タンパク質の創生方法

 この前提にたって、新規タンパク質の創生が遺伝子の変異により起こる場合のことを考えてみよう。膨大な種類の分子種の中で、如何に天然タンパク質として構造形成や機能獲得ができるかを、個々のタンパク質の変異毎に点検することは、全く不可能であると考えられる。これは個々のアミノ酸単位の変異で計算した結果なのである。しかし、それをアミノ酸の代わりに、数個から十数個のアミノ酸で構成される短鎖ペプチド構成体単位で考えるとどうであろう。構成体の種類には制限があることから、確認する対象の数も少なくて済むことになり、点検には都合がよい。また、それらの構成体がすべて複合体形成が可能であると仮定しているので、点検がはるかに短縮されると考えられる。即ち、アミノ酸が数個から十数個の種類で、それも数が限定され、すべてが構造構築に有効と分かっている構成体であれば、分子量が4万の天然タンパク質を点検することは、可能と考えられる。短鎖ペプチド構成体は、自然生成された短鎖ペプチドの自然選択の最終段階なのである。短鎖ペプチドのうち、複合体形成はごく僅かであるといわれており、また「個別短鎖ペプチド鎖複合体獲得装置(仮称)」の段階でも、点検がおこなわれていると考えられる。

 短鎖ペプチド構成体の自然選択は、短鎖ペプチド複合体の複製にも道を開く結果にもなったのだろう。最小限の短鎖ペプチド構成体を複製しさえすれば、その後は“個別短鎖ペプチド鎖複合体獲得装置(仮称)”の設計図に基づいて、自動的に巨大な複合体を形成することができるようになるからである。その構築原理は、次に起こる生命誕生後の遺伝子管理下におけるタンパク質創生に受け継がれ、その遺伝子は、短鎖ペプチド鎖構成体をコードする遺伝子断片が連結したものと考えられる。遺伝子断片の配置をシャッフリングすれば、無限に近い数の天然タンパク質構造の創生が可能性であるし、また生物細胞が新規タンパク質を創生する場合でも、原始前生物環境で創生したものに類似したものがあれば、創生は可能だったのではないか。

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