4.始原袋、原始細胞、現生細胞の創生
次に、生命誕生の場である細胞について話を進めることにする。細胞の進化として、私なりに始原袋、原始細胞、現生細胞と三つに分けてみたが、それは私独自の考え方によるもので明確な基準ではい。
私は、開放的な原始前生物環境の後期に、外界を遮断する無数の半透膜の袋が出現したと考えている。この袋状のものが生命誕生の場になるもので、この生命誕生に使われた袋内物質は、すべて原始前生物環境で創生された“原始スープ”のものであったと考えている。しかし、原始前生物環境で多様で玉石混交に創生された有機物質のうち、どれが生命誕生に必要かどうかを選別する手立てをこの袋はもっていなかった。ましてや“原始スープ”で選択的に生命物質だけが集まることもなっかたであろう。
生命の誕生の条件ー”始原袋”
開放系の“原始スープ”のそれぞれの物質は、意図性がなく無作為につくられたもので、お互いの関連性があまりないため広範囲に浮遊し、物質を繋ぎ止める場もなく、生命が誕生する環境ではなかったと考えている。そう、生命が誕生するには条件があるのである。その条件として、物質を閉じこめる袋のようなものが必要であったことは、すぐに思い浮かべることができる。この始原的な無数の袋状のものが細胞の原型になると誰でもが思い、私もそう考えている。この仮想的な袋状のものを、以後「始原袋」と呼ぶことにした。この閉ざされた袋内の環境は開放的な“原始スープ”のそれとは著しく異なっているが、物質のレベルでいえば、“原始スープ”の多様な物質が不均一に取り込まれており、開放系環境と袋内は物質的には連続的な関係にあり、始原袋は原始無生物環境との橋渡しの役割をしていたと考えている。従って、始原袋は原始前生物環境の多様な物質の取り込みと、その中から、後の生命物質となるものを選択し、必要のないものは排除するという選択能力が次第に生じ、さらにDNAやRNAのような生命物質の原型がつくられ、“原始スープ”に存在しない新たな物質もつくられていったと考えている。
原始細胞への進化
一方、原始細胞は始原袋が進化したものである。繰り返し述べるが、この始原袋が生命を宿すようになるのは、あくまでもタンパク質の存在様式なのである。生命は、本質的には、始原袋がいかに自分が立てた規範に従って、タンパク質を合成できるかどうかにかかっていたのである。この場合の規範とは、始原袋が原始細胞へ進化する過程で、外界から取り込むことができる炭素源は、単糖のような低分子物質に限定されており、1種類の単糖から20種のアミノ酸をはじめとする、生命誕生に必要なすべての物質をつくりだす物質代謝系の創生や、その代謝系に関係するタンパク性触媒では、“原始スープ”に存在する触媒性短鎖ペプチド複合体の遺伝情報を利用する必要があった。その情報に基づいて、遺伝子を創生し、DNAの自己複製による次世代の情報伝達と、タンパク質の発現などを操る遺伝装置を創生する必要があった。このように物質代謝系と遺伝装置が中心になり、玉石混淆の“原始スープ”から生命物質だけを自律的に選択できる仕組みを進化させていったと考えられる。その基盤となったのが、複雑で巧妙な多くの細胞構造物の構築である。この構築物が一気呵成に生命を誕生させ、その後、現生細胞の形態と細胞内の仕組みの大きな変化を経て、多様な生物進化につながったのである。