25.活性部位の機能獲得とエクソンシャッフリング
触媒作用とは
触媒反応の対象となる基質はほとんどが有機物質であり、自然環境で常に不安定で、徐々にいろんな物質に変化する可能性をもっている。この構造的に不安定な基質が徐々に変化するのを、巧妙に適切な非共有結合を利用しながら、この化学変化を著しく増幅させることを触媒作用という。この触媒機能を持つもののほとんどが、タンパク質や短鎖ペプチド複合体であると考えられる。
酵素タンパクの起源
酵素タンパクの活性部位は、ドメインとドメインが合体する狭い接触部位に存在する場合が多いといわれている。活性部位がどうしてこのような位置にあるかを考えてみた。活性部位を詳細にみてみると、基質結合部位と触媒部位が構造的に融合されていることがわかる。これにより酵素タンパクの起源は、原始前生物環境で、基質分子と結合する短鎖ペプチド複合体(ここでは基質結合ドメイン)と、触媒をおこなう短鎖ペプチド複合体(ここでは触媒ドメイン)とがそれぞれ単独に存在していたと考えた。触媒反応は、最初に基質結合部位をもつ短鎖ペプチド複合体に基質が結合し、次にこの結合した基質に触媒部位を持つ短鎖ペプチド複合体が触媒作用をおこなうのである。二つの複合体の接触が頻繁になると、複合体同士が構造的に合体し、やがて別々にあった二つの機能が効率的に連続して触媒作用するために接近し、ついには構造的に融合して活性部位を形成したものと考えられる。そして、それが天然タンパク質にも受け継がれたのあろう。
エクソンシャッフルリングの起源
この例でも分かるように、天然タンパク質構造は複数の機能性のあるドメインから構成されている場合が多いが、それぞれのドメインをコードしている遺伝子断片を他のドメイン遺伝子断片と取り換えることにより、部分的に異なる機能を獲得することが知られている。これをエクソンシャッフルリングという。このような遺伝子断片の交換によって新しい機能を獲得できることを考えると、原始前生物環境でも、短鎖ペプチド複合体の一部の構成ペプチドが他の適切な短鎖ペプチドと交換したり、または短鎖ペプチド複合体に機能をもった新しい短鎖ペプチド複合体が付加することによって、部分的に新しい機能をもった短鎖ペプチド複合体が形成することもできたとも考えられる。この短鎖ペプチド複合体の交換や付加は、いろいろな機能獲得に有利に働く場合があり、その原理が遺伝子に引き継がれ、エクソンシャッフリングの起源になったのではないかと考えている。
即ち、触媒性短鎖ペプチド鎖複合体が酵素タンパクの原型となり、さらに適切な短鎖ペプチド鎖構成体や複合体が会合してその触媒能力と基質特異性を高め、さらに高度な制御機能をもつアロステリック効果などの機能を獲得し得たのだろう。