8.非共有結合

原子・分子間の結合には大別して強い結合と弱い結合の二種類がある。物質間の結合で最も強いものは共有結合で、タンパク質の場合、ペプチド結合のみが共有結合であり、その直鎖構造は安定しており、それを分解するには外部から相対的に高いエネルギーを与えなければならない。ペプチドやタンパク質では共有結合は二次構造や立体構造の主鎖骨格の形成に関係している。

一方、弱い結合は非共有結合で、少し引っ張るとすぐ離れてしまい、また手を放すと再び結合する程度のものである。その弱い結合が、条件を変えると強く引っ張っりあって容易に離れず、結合の強さを増すという多様性を持つということは、ペプチドやタンパク質の立体構造や機能に対して重要な意義を持っている。弱い結合である非共有結合にはいくつかの種類があり、その結合力も一様ではなく、それぞれの性質も役割も異っているように思われる。

非共有結合にはファン・デル・ワールス引力、水素結合、静電相互作用および疎水結合などがあり、共有結合と比べて一桁から三桁ほど結合力が弱く、従って、温度を上げたり、ある種の化学試薬で様々な化学処理を行うと、容易に壊れてしまう場合もある。

ファン・デル・ワールス引力

ファン・デル・ワールス引力は最も弱い結合で、すべての分子間で非特異的に結合しており、室温の熱エネルギーよりもわずかに大きく、少し温度を上げると容易に離れてしまう。しかし、このような結合力の著しく低いファン・デル・ワールス結合でも、その結合数が多く、従って接触面の面積が広くなると結合力も増すことになる。抗体抗原反応はその典型で抗体タンパクの結合構造のへこみに抗原分子のでっぱりがぴったり合うような相補的結合面で、ファン・デル・ワールス結合の数が多くなると解離できないほど強くなる。

水素結合

水素結合の場合、酸素や窒素と共有結合した水素(O-H, N-H)が関与するもので、水素結合の受容体も酸素か窒素であることから、結合に特異性を持っている。また分子内で水素が受容原子である酸素や窒素と直線に向いているときは最も強く、曲がって結合したものは弱くなるというふうに方向性も備えており、この結合もファン・デル・ワールス引力のように相補的な構造で威力を増す。水素結合はファン・デル・ワールス力と比べ結合力ははるかに高く、強い特異性と方向性を持っており、ペプチドやタンパク質の構造内での多様な結合などに深く関わっている。

静電気結合

静電気結合はアミノ酸の中にはそれぞれ正に電荷するものと負に荷電するものがあり、それらの荷電基はお互いに結合して中和する傾向をもつ。こういう結合を静電気結合またはイオン結合ともいうが、この静電気結合もペプチド鎖やタンパク質の構造内や分子間の結合にも見出すことができる。静電気結合の中には水素結合の性質をもっているものもある。例えばアミノ基(NH3+ )の水素はカルボキシル基(COO)の酸素との間に水素結合をつくることが多い。この水素結合は、ペプチドやタンパク質の分子内のα-ヘリックスやβ-シートのような二次構造の形成の要因ともなっており、この場合水素結合の特異性と方向性が重要になってくる。この他にも、この種の水素結合は非共有結合が起こっているところに関係しており、ファン・デル・ワールス引力と並んで非共有結合の中でも重要な結合様式である。

疎水結合は、非極性基が水分子と接触しないように配置するため非極性基同士が接近する。タンパク質分子内部の安定化、タンパク質と他の物質との複合体形成と安定化で重要な要因になっている。

短鎖ペプチドは構成アミノ酸の共有結合や各種の側鎖の非共有結合の種類と数を巧みに使い分けながら、対象物質との選択的結合を複雑にしているのである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です