19.原始細胞の進化と生命誕生
私は先に、原始前生物環境の始原袋に関し、不完全ではあるが原始的な物質代謝やエネルギー代謝の創生と、炭素源であるブドウ糖から生命物質が生産できる物質代謝ネットワークの存在の可能性を指摘した。ただし、その代謝過程では中間代謝物が異常に蓄積されたり欠乏したりするなど、不均一で無秩序な状態が生じやすかったため、それを修正し恒常的・安定的に一定の代謝物を維持できる、ロステリック効果や触媒性タンパク質のリン酸化などの代謝調節機構を創生したのが原始細胞であったと考えている。
四次構造の組織化
始原袋から原始細胞の創生期にかけては、生命誕生の契機となる生命物質の安定的な連続的供給体制を維持するため、その運営に必要な種々の機能をもつタンパクが複雑に集積しあい、集積構造体である四次構造が組織化されたと考えている。即ち、触媒的原始タンパク質が進化することによって、物質・エネルギー代謝系とその制御系が進化し、本格的な生命に必要な構成物質の供給体制が整い始めたのであろう。このような時期になると、生命誕生に必要なタンパク質の分子進化の準備も終わり、タンパク質の集積複合体や複合構造体などの組織化が加速度的に進行し、タンパク質の構造進化を基盤にして重層的な複合構造体が形成された。高度の機能を持つ遺伝装置をはじめとして、呼吸系や光合成系などの構築が始まり、さらにそれらが相互に分化しあいながら、生命誕生の方向に大きく舵を取り、ついにはこの原始細胞が生命を宿す細胞の原型になったと考えている。