12.高分子核酸の構造

 

RNAとDNAの構造

 高分子核酸は塩基と糖とリン酸基で構成され、その構成糖がリボースであればリボ核酸(RNA)が、デオキシリボースではデオキシリボ核酸(DNA)がそれぞれ形成される。RNAはリボースとリン酸のホスホジエステル結合で骨格を形成し、塩基は糖と結合して分子内でところどころ相補的に結合することで、複雑で多様な構造になっている。中には触媒的機能をもつものも現れた。DNAは外側にデオキシリボースとリン酸の二本の骨格が、内側で塩基同士が非酵素的に相補的に水素結合し、その全体の構造が逆位平行の二重らせんになっている。ただし、RNAとDNAの構成塩基が、RNAのウラシルがDNAではチミンになっており、若干異なっている。以上がRNAとDNAの構造の概要である。

 RNAとDNAの重合は、糖とリン酸の骨格形成のホスホジエステル結合という合成困難な反応であったため、自然生成では合成されず、触媒性短鎖ペプチド複合体か、または原始タンパク質の存在が必要であったと考えている。

 分子進化的には、RNAが合成された時期はDNAよりも早かったのは間違いない。それが、原始前生物環境の開放系であったのか、始原袋が原始細胞に進化する過程であったのかはわからないが、いずれにせよ、RNAの構成成分であるリボヌクレオチドから短いRNA重合体が形成され、それが遺伝暗号に使用されたり、後にDNAの合成に関与したと考えられる。更に、短いRNAが高分子化するのは、先に述べたように、始原袋がこの短鎖RNAをランダムに包み込んだ無数の袋が膜融合を繰り返すことで、リボースとリン酸のホスホジエステル結合で骨格が合成され、リボースに結合する塩基は、高分子化した分子内で部分的に相補的に結合して、いくつかの種類のRNA構造が形成されたことによる。一方、このRNA構造形成の多様性の中から、たまたま構成糖をデオキシリボースにした場合、その重合体が二重らせんを形成し逆位平行になることで、DNA独自の機能である自己複製が形成されることを経験則として得たのではないかと考えている。このようなDNA鎖が逆位平行の二重らせんを形成できるのは、リボースの2’のOHがHに置換しデオキシリボースにするだけのことであるが、この糖を生成するために長い代謝経路を必要とする。このような合成困難なものを敢えて創生したことは、唯一遺伝情報を収納するためのものであったかもしれない。

 DNA鎖の構造の利点は、構造的に一本のDNA鎖がいくら長い鎖であっても、他の相補的な一本鎖のDNAと水素結合し、自己複製可能な二重らせんを形成することができることであり、それが可能になったとき、DNAに収納する遺伝情報容量がいくら増大しても、DNA鎖を長く伸ばしさえすれば解決できることである。
 

短鎖RNA

 本題からやや外れるが、私は、創生当時のRNAもDNAも比較的短い雑多な重合体として生成され、それが原始細胞になるまでに、高分子化されたと考えており、DNAの場合、その根拠になるのは、二重らせんのDNAの伸長に関与するDNAポリメラーゼの反応機作から考えられる。この酵素は唯一、5‘→3’方向にだけ鎖を伸ばすことができるが、逆位平行であるため、もう一本の3‘→5’方向には伸ばすことはできない。そのため、一旦短鎖RNAを合成して、それをプライマーとしてその3‘末端に5’末端のデオキシリボースを重合させ、比較的短い5‘→3’方向のDNA鎖をつくり、これまで3‘→5’方向に伸ばしていた鎖と結合させて、それを繰り返すことにより、さらに長い二重らせん構造が形成されるのである。このように、二本鎖DNAは短鎖RNAが介在しなければ重合できない仕組みになっており、同時に比較的短いDNA鎖が一時的に生成されることを考えると、DNA鎖の創生期も本来一時的に比較的短い鎖が生成され、それが重合して鎖を次第に伸ばしたとも考えられる。更に、遺伝情報がタンパク性物質からDNA鎖に伝達される過程に、この短鎖RNAや比較的短いDNAが関係しているとするのは考えすぎだろうか。

 一方、短鎖のRNAがなければ、DNAポリメラーゼだけではDNAの鎖を長く伸ばすことはできない。これは大野乾の禁断の酵素の一つである、DNAポリメラーゼが勝手に異種DNAを合成することで細胞が大きく混乱することが考えられるので、RNAの介在がなければ無作為にDNA鎖を伸ばすことを厳しく制限した結果であるとも考えられる。

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