43.“青い惑星”をつくった短鎖ペプチド

 

 第一部 総括~短鎖ペプチドの出現

 ここでは、第1部で述べたことについて総括する。

 私は、自然生成された短鎖ペプチドのすべてが複合体を形成するとは限らないと考えている。僅かな有効なペプチドだけが構成ブロックになり、複合体を構築する能力をもち、それらが離合集散を繰り返しながら、ペプチド同士が親和力と特異性をさらに高めながら会合し、安定な短鎖ペプチド複合体構造を構築する。さらに他の物質と結合する過程において、多様な機能を獲得するようになったと考えている。これを保証したのが、短鎖ペプチドの自然生成時から本性として持っていた擬態思想である。地球が誕生してしばらくして、この稀有な性質をもつ短鎖ペプチドが出現して、地表がにわかに騒々しくなり、その後の表層環境を一変させ、他の天体には類をみない独自の“青い惑星”へと変貌させたのである。いわばこの擬態思想をもつ短鎖ペプチドが、分子進化と生物進化の共通した最大の推進者となったのである。

 即ち、地球表層に出現した短鎖ペプチドはその後、会合して多様な複合体を形成し、その中から、最初は各種物質を特異的に認識する機能をもつようになり、それを基盤にして触媒機能などの高度の機能をもつものが出現した。このように重要な機能を獲得した短鎖ペプチドとその複合体が、自然生成に頼らない独自の複製機構を創生し、短鎖ペプチドを生産できるようになったのである。その結果、加速度的に多種多様な機能をもつ短鎖ペプチド複合体が生産され、紆余曲折な過程を経て、短鎖ペプチド複合体以外の多様な有機物質の生産をも促し、各種の生体物質の原型を創生し生命を誕生させたのである。自然環境で生成することができなかったトリプトファンなど、複雑なアミノ酸をも創生することによって、環境により適合でき、巧妙な機能性の高い触媒性短鎖ペプチド複合体の創生や、DNA/RNAなどの高分子核酸の合成が可能になったのである。

 この原始前生物環境における分子進化過程は、生命誕生後の閉鎖された細胞内での厳しい制限下にある遺伝子管理体制とは全く違い、自律的で自発的な、創造性豊かで開放的な原始前生物環境で合成できるという夢のような時代であったと考えている。開放系であらゆる有機物質の試行錯誤の化学実験が試され、多くの物質が創生され、蓄積され、その一部が生体物質として受け継がれたと考えられ、この膨大な試行錯誤的経験がなければ、生命の誕生とその後の生物進化はなかったであろう。もしあったとしても、その後の生物進化は全く違ったものになっていたであったに違いない。また、生命誕生以後の、遺伝子が支配している閉鎖的で厳格な管理体制では、このような無駄と思われるような実験的作業は考えられないのである。しかし前述したように、原始前生物環境での開放的分子進化で獲得した貴重な経験や実験系がまったく消失したとは考えていない。何らかの形で生物時代の現在にも受け継がれているに違いないのである。

 私がこれまで述べてきたように、タンパク質の起源である短鎖ペプチドが、ものを真似るという稀有な本性の擬態思想をもっている以上、複製の原理を兼ね備えていることは当然のことであろう。この複製原理を基盤に、短鎖ペプチド複合体は触媒機能を獲得した。これはまさに、私が広義の意味での「複製」の範疇に入れているものである。その理由は、厳しい基質特異性をもつ触媒性短鎖ペプチド複合体は、基質から大量の同じ生成物(複製物)をつくるからである。その延長線に、鋳型的多短鎖ペプチド複合体系が創生されたと考えられるのではないか。即ち、触媒的短鎖ペプチド複合体が多くの物質を創生する中で、タンパク性物質である短鎖ペプチド複合体が、これもタンパク性物質である短鎖ペプチド構成体を複製することが可能であると考えられるのである。それよりもはるか後に、この触媒性タンパク性物質はDNAを創生し、このDNAがタンパク性物質の複製原理を受け継ぎ、ついにはタンパク性物質とともに生命を誕生させる原動力になったと考えている。

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