42.アミノアシルtRNA合成酵素様複合体

 短鎖ペプチドやその複合体は、本性として他の物質と化学的に結合したり、さらに物質の構造に自分のかたちを自律的に適応させて相補的に結合するという、稀有な擬態思想を持っていた。短鎖ペプチド鎖構成体が複製するなかで最も重要な基盤となるものは、特定のアミノ酸単体をそれぞれの短鎖ペプチド複合体に特異的に結合させる、アミノアシルtRNA合成酵素様複合体であると考えている。また、このような触媒性短鎖ペプチド複合体が出現したのは、原始前生物環境の初期と推測する。なぜなら、既存の各種アミノアシルtRNA合成酵素がアミノ酸単体と結合する機構をみると、それぞれのアミノ酸のかたちに合った窪み(鍵穴)をつくり、そのなかに基質のアミノ酸単体がぴったりはまっているからである。
 

 グルタミルtRNA合成酵素

 一方、グルタミルtRNA合成酵素は、グルタミン酸とグルタミンが同じ鍵穴に入ってしまい、両者を識別できないほど特異性が低い構造であったと考えられ、現在でもその痕跡を残している。グルタミルtRNA結合酵素は、結合特異性が低い短鎖ペプチド鎖複合体であったため、そこで複製される短鎖ペプチド鎖構成体のアミノ酸配列の正確度は低かったことが予想されるが、その後の分子進化でグルタミン酸とグルタミンを識別する新たな機構が加わり、その低い結合特異性は克服されていったと考えられる。その後に創生されたと考えられるグルタミン酸とグルタミンを基質とする酵素タンパクや、膜輸送タンパクなどでは、両者をそれぞれ識別できる基質特異性などをもつものに分子進化している。いずれにしても、短鎖ペプチド複合体が各種アミノ酸と特異的に結合することが、ペプチド構成体の複製を創生する第一歩であったことは違いない。

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