41.鋳型的多短鎖ペプチド複合体の遺伝装置とDNA

 原始前生物環境では、多くの短鎖ペプチド複合体が共同して短鎖ペプチド構成体を複製する能力を獲得することで、安定的に供給できる体制が確立したと考えられる。さらに“個別短鎖ペプチド複合体獲得装置(仮称)”を創生することにより、構成体から多種多様な機能をもつ個別的短鎖ペプチド複合体を、自律的に設計できるようになった。個別的ペプチド複合体の機能の中で触媒能力の獲得はとりわけ重要で、これによって原始地球の表層で自然生成された有機物質から自律的に多種多様の複雑な物質が生産され、豊かな原始前生物環境という、夢のような創造的世界が演出されたのであろう。その中から、多様な生体物質の原型が生産され、生命誕生を予兆させる物質的基盤が整えられた。
 

 DNA分子の創生

 しかしその後、それが終焉を迎える事態が到来したに違いない。それは、この短鎖ペプチド複合体の複製装置の需要が飛躍的に拡大し、それに伴って情報量が膨大になり、鋳型的多短鎖ペプチド複合体のような情報処理が低いタンパク性物質だけでは、膨大になった遺伝情報をすべて処理するのが困難になるほどの危機的状況が生じたと考えられる。そのために、タンパク性物質による複製装置と比べてはるかに迅速で効率のよい、革新的な機構を構築することが緊急の課題となったのだろう。この状況下で、短鎖ペプチド複合体は相補的塩基結合で自己複製を迅速で容易に行う情報収納能力の高い物質として、DNA分子を創生した。このDNA分子に、これまで短鎖ペプチド複合体の遺伝装置に蓄積していた、生命誕生に必要な情報を収納する遺伝子を創生したのである。

 生命誕生後の細胞で、遺伝子に生体物質に関する情報をすべて収納させるという移譲作業が完了すると、それまで存在していた鋳型的多短鎖ペプチド複合体でつくられた複製装置は、完全に破壊し排除されたのである。もし、このような大転換の過程で、旧来のタンパク性複製装置が少しでも保存され、それにより触媒的短鎖ペプチド複合体が合成されると、細胞中の生体反応系に混乱が生じ、統制できないほどの危険性をはらんで、誕生したばかりの生命の生存を脅かす事態になっていたと考えられる。従って、生命は旧来のタンパク性複製体制を厳しく排除し、創生したばかりの既存のリボソーム介在系タンパク質生産体制で完全に運営されるようになったのである。

 これはまるで分子進化で、自然ではアミノ酸や糖類にL,D型の異性体がそれぞれ存在するが、生体ではL-アミノ酸や D-単糖類以外はほぼ一掃されたことと似ている。

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