37.タンパク性アダプターが関与する短鎖ペプチド構成体の複製仮説
触媒性短鎖ペプチド複合体の構成体認識部位の構成体が解離した後の窪みに、アミノ酸単体がほとんど結合しない、あるいは他のアミノ酸単体と競合し識別できないほど特異性が低い場合、同じ側鎖をもつアミノ酸単体の結合は不確実で、正確に結合できなければ複製は不能となる。ここではこの場合を考慮し、別の鋳型形成の仕組みを考えてみる。
転移RNAアダプター
私はその解決策のヒントとして、タンパク質生合成に介在する転移RNAに注目した。転移RNAアダプターがタンパク質のアミノ酸配列の情報をもつ伝令RNAの塩基配列から直接アミノ酸配列に変換できるのは、転移RNAアダプター分子が分子内に全く異なる働きをもつ二つの部位をもつからで、その一つは伝令RNAのコドンに対合するアンチコドン部位、もう一つはアンチコドンの情報に従って同じ側鎖をもつアミノ酸単体と特異的に結合する末端部位である。私は、このような転移RNAアダプターの機能をヒントに、触媒性短鎖ペプチド複合体とそれとは異なる1個のアミノ酸単体と結合する短鎖ペプチド複合体とがセットになったタンパク性アダプター分子を考えた。
二つの異なる短鎖ペプチド複合体
最初に、初期の触媒性短鎖ペプチド複合体のアダプターについて考えてみた。この場合、一分子のアダプターは最初から二つの働きをもったものがつくられていたわけではなく、それぞれの働きをもった別々の短鎖ペプチド複合体が存在していたと考えている。一つは、触媒性短鎖ペプチド複合体で、伝令RNAの塩基配列に相当する構成体のアミノ酸配列を役割とする。構成体の一個のアミノ酸残基をコドンに相当するものと仮定し、アミノ酸残基を触媒性短鎖ペプチド複合体が認識する部位―複数のアミノ酸残基で窪みがつくられるが、それをアンチコドンに相当する部位とした。一方、もう一つの異なる短鎖ペプチド複合体は、特定のアミノ酸が特異的に結合する部位をもっている。どのような情報によって、どのような種類のアミノ酸が結合するかは、触媒性短鎖ペプチド複合体のアンチコドンの種類によって決まると考えている。では、どのようにしてアンチコドンの情報が別の異なる短鎖ペプチド複合体に伝えられるのか。これには、まったく別の異なる触媒性短鎖ペプチド複合体の存在、即ちアミノアシルtRNAシンテターゼに相当する機能を持つ、原始的な触媒性短鎖ペプチド複合体が、これら二つのペプチド複合体の橋渡しをしていると考えている。以上のように、アミノアシルtRNAシンテターゼによって、二つの短鎖ペプチド複合体に関係ができると、やがて二つの働きをもった複合体が構成体の複製のため接近し合体し、二つの働きを持つアダプターに進化したと考えられる。ここでは、短鎖ペプチド構成体のアミノ酸配列を認識する触媒性短鎖ペプチド複合体のアンチコドンの情報どおりに、アミノ酸配列順にアミノ酸単体が並んだ短鎖ペプチド複合体の連結したものを鋳型とした。1個のアミノ酸単体と結合した短鎖ペプチド複合体が、短鎖ペプチド構成体のアミノ酸配列のように並ぶ鋳型と考えたのである。また、この仮説を裏付けるように、近年tRNA構造に類似したタンパク性の擬態tRNAが発見されていることに注目したい。