38.タンパク性アダプターによる複製仮説のまとめ

 

 鋳型的多短鎖ペプチド複合体系の形成

 繰り返し述べると、アミノ酸配列の情報をもっている短鎖ペプチド構成体自体が伝令RNAの役割を持ち、構成体の個々のアミノ酸残基がコドンに相当し、このコドンに相当する構成体の個々のアミノ酸残基を認識する触媒性短鎖ペプチド複合体側の認識部位を構成する複数のアミノ酸残基を、アンチコドンに相当するものと考えた。このアンチコドンをもつ触媒性短鎖ペプチド複合体とは異なる別のタンパク性アダプターと考えている個々の短鎖ペプチド複合体の特定の部位に、アンチコドンの情報に従って、同じ側鎖をもつアミノ酸単体を結合させるアミノアシルtRNAシンテターゼに相当する、原始的な触媒性短鎖ペプチド複合体が関与していたと考えている。この結合過程で、それぞれのアミノ酸単体と結合したタンパク性アダプターが短鎖ペプチド構成体のアミノ酸配列順に並ぶようになり、鋳型的多酵素複合体の原型となると考えられる鋳型的多短鎖ペプチド複合体系が成立する。さらに、この鋳型的多短鎖ペプチド複合体系には、短鎖ペプチド構成体のアミノ酸残基の数だけアダプターの複合体の特定の部位にアミノ酸単体を結合させる、触媒性短鎖ペプチド複合体アミノアシルtRNAシンテターゼ様複合体が共存していることになる。それぞれのアダプターは別の触媒性短鎖ペプチド複合体によって構成体のアミノ酸配列順に並び、鋳型的多短鎖ペプチド複合体系が形成されるのである。その場合、個々のアダプターに結合したアミノ酸単体を構成体のアミノ酸配列順に連結させるためには、ペプチジル基転移活性を持つ複合体が会合して、原始的な開始または伸長モジュールに相当する巨大な複合構造体を形成すると考えられる。

 既存のタンパク質生合成では、タンパク質をコードしている遺伝子から転写された伝令RNA の塩基配列を、リボゾームの場で転移RNAが介在してタンパク質のアミノ酸配列に変換されるのに対して、タンパク質の原型である短鎖ペプチド複合体は、原始前生物環境でのタンパク性アダプターを用いて複製を遂行する。即ち、コドンに相当する短鎖ペプチド構成体を認識する触媒性短鎖ペプチドの認識部位をアンチコドンに相当するものとして、その情報に従って、それとは異なるそれぞれのアダプターに相当する新規の短鎖ペプチド複合体が存在し、その特定の部位に同じ側鎖をもつアミノ酸単体をアミノアシルtRNAシンテターゼ様複合体の作用で結合させ、さらにそれぞれの複合体を短鎖ペプチド構成体のアミノ酸配列順に従って結合させ、鋳型的多短鎖ペプチド複合体系を創生し、並んだアミノ酸単体をペプチジル基転移酵素に相当する触媒性複合体の作用で結合したものが短鎖ペプチド構成体の複製体となるのである。

 リボソーム介在タンパク質生合成では、遺伝情報はDNAからタンパク質に流れるのに対し、非リボソーム性ペプチド合成系ではペプチドからペプチドに流れる。これら二つの合成系を比較すると、それぞれの合成系を構成する物質は、前者は高分子核酸とタンパク質であるのに対して、後者はタンパク性物質のみであり、高分子核酸はまったく使用されていないのが特徴である。前者は後者と比べて合成速度や効率でも、前者はアミノ酸数がはるかに長いタンパク質でも容易に非常に迅速に合成されるが、後者はペプチドまでの短いペプチドに限定されている。私は、ペプチドしか合成できないタンパク性物質のみの合成系の複製原理を踏襲して、後者のリボソームが関与するタンパク質合成系に進化したのではないかと考えている。

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