31.池原の「疑似複製」説

 原始前生物環境の初期段階から、短鎖ペプチド複合体の機能が短いペプチドをどのように複製したかについて、私なりの考えを述べてみたい。タンパク性物質の複製に関する記述の代表的なものとしては、池原の先駆的な「疑似複製」説がある。これは私も共鳴する部分があり、まずはそれについての私見を述べておく。
 

 「複製」とは

 先に述べたように、短鎖ペプチドが複合体を形成する際、異なるアミノ酸配列でも類似した局部構造を形成できたり、同一のペプチドがいろいろな異なるタンパク質の局部構造に利用されたりすることを考えると、固有の立体構造をもつ短鎖ペプチド複合体はアミノ酸配列が異なっていても類似した構造をとりうる、あるいは同じ短鎖ペプチドであってもそれらの配置の違いにより異なる複合体が形成されうることになる。この観点にたつと、池原の提案した疑似複製は構成アミノ酸が4種類に限られているものの、アミノ酸配列が多少異なっていても類似した構造をとったり、中には異なる構造になる可能性をはらんでいると考えられる。天然タンパク質が、それをコードする遺伝子によって厳しく管理されていることを知っている現代の我々は、アミノ酸配列が曖昧であることを真の複製ではないと感じるのは無理からぬ事かもしれない。

 しかし私は、原始前生物環境の初期の短鎖ペプチド複合体の構造にあっては、構造が優先され、アミノ酸配列はあまり重視されなかったのではないかと考えている。ある種のタンパク質が種間で同じタンパク質であるかどうかは、アミノ酸配列の相同性が30%前後であるかどうかが判断の基準とされている。ということは、仮に70%のアミノ酸が異なっていても、同じ構造を持つタンパク質であると見なすことができるのである。中にはドメインが10%以下の相同性であっても構造が同じで、同じ機能をもっている場合もある。私は、池原の提案した疑似複製でアミノ酸配列が大変異なっていたとしても、その存在は構造的に疑似複製であった可能性が高いと考えている。

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