30.「複製」の定義

ここまで、原始前生物環境において、タンパク質の原型である短鎖ペプチド複合体が短鎖ペプチド構成体の自律的な会合によって形成されること、短鎖ペプチド構成体が形成されれば短鎖ペプチド複合体が自動的に形成されるということについて説明してきた。さらに短鎖ペプチド複合体の複製についての私論を続けたい。

 複製とはDNAだけによるものか?

はじめに、「複製」という言葉であるが、生物系の辞典で調べると必ずその説明に「DNAの」という但し書きが加わる。それはまるで、自然界で複製はDNAだけが行うものであり、タンパク質には複製能力はないと宣言しているようなものだと私には聞こえ、果たしてそうだろうかという疑問を絶えず抱いていた。DNAの自己複製とは親細胞のDNAの二重らせんが巻き戻され、それぞれの鎖を鋳型にして相補的に対合するヌクレオチドを連結し、親DNAの情報を正確に娘細胞へ伝える一連の過程として表現される。一方、私が考える「複製」とは『広辞苑』が示しているように、「もとの物に模した物を作ること、特に書籍・美術品などを原形のままに模して作ること」という広い意味である。つまりそれはDNAはもちろん、細胞にも、細胞がつくる多様な物質にも当てはまる言葉であり、「原形のままに模して作る」タンパク質もその範疇に入ることになる。「タンパク質の一次構造は、固有の高次構造を自動的に、ある程度形成する情報を持っている」というAnfinsenのドグマさえ包括する言葉だと考えている。

リボソームで生合成された同じアミノ酸配列の新生ポリペプチド鎖は、多数の糊代があり、多様な構造をとる可能性があるにもかかわらず、それが自律的に折り畳まれると、ただ一つの固有の立体構造に収束するというような奇跡に近いことをやってのける。これも広義の意味で自己複製のひとつであると考えている。もっと拡大解釈すると、厳しい基質特異性を持つ酵素タンパクが同じ基質から、ただ一種類の物質を大量に生産することも、複製といえなくもないのではないだろうか。この例では酵素タンパクを複製促進物質と定義することもでき、タンパク質の複製=同じものを作るという意味で、それこそがタンパク質の持つ本性であるといっても言い過ぎではないと考えている。

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