18.タンパク質の階層的分子進化と細胞の自動制御組織体
次に、細胞の自動制御組織体はどのような構築原理で組み立てられたかについて、私の考えについて述べたい。短鎖ペプチド複合体は、原始前生物環境の末期か始原袋が形成された初期のいずれかに、短鎖ペプチド複合体を構成する短鎖ペプチド構成体がペプチド結合で連結し、一本の長い鎖に進化した可能性については、先に述べたとおりである。また、タンパク質構造は短鎖ペプチドの集積体で、これがタンパク質の構造を複雑化している要因であることも指摘した。私はこの鎖を、原始タンパク質と呼ぶことにする。
原始タンパク質の進化過程
原始タンパク質は一本の長い鎖になると、そのアミノ酸配列の情報に従って一挙に自律的に折りたたまれ、天然タンパク質である三次構造を形成し、さらにこの三次構造が特異的に結合し、質的により高い機能を持つ機能的集積体である四次構造を形成したと考える。ATP合成酵素や各種のアロステリック酵素タンパクをはじめとして、多くのタンパク質が複雑な新しい機能をもつ四次構造を形成したり、さらにその集積体の中には情報高分子であるRNAと結合し逐次組織化することにより、さらに巨大な細胞内複合構造体であるリボソームのような、高度で複雑な機能をもつ細胞小器官を創生するようになったのだろう。即ち、三次構造のタンパク質が自己集積して四次構造の形態をとるようになり、さらにその集積体が構成体として組み立てられ、細胞内の遺伝装置のような細胞小器官の階層的組織化が進行したと考えた。その根底にあるものは、糊代をもつ原始タンパク質の特異的な接着効果である。これを基盤にして細胞の複合的構造体が形成され、種々の細胞小器官や顆粒などの複雑な複合的構造体の構築には、タンパク質の構造形成が大きな影響を与えていた可能性が高いと考えている。
私は、いくつかのタンパク集積構成体である複合構造体が整備されると、それらは自動的に一極集中し、一気呵成に組織化するものと仮定した。この組織化は、リボソームで生合成されたばかりの新生ポリペプチド鎖が糊代を選び、ぴったりくっ付きながら自動的に一挙に折りたたまれ、三次構造が形成されていく過程に似ていると考える。そして、このように三次構造のタンパク質がタンパク集積構造体である四次構造に集積したり、集積構成体から細胞複合構造体が形成する場合の物質間をつなぎとめる特異的な接着剤の役割をすることは、タンパク質の原型である短鎖ペプチドがその創生期からもっていた本性であるに違いない。このタンパク質の接着剤としての性質がなければ、一極集中的に各種の細胞器官の組織化はあり得ないのである。
その一例になるだろうか。コレステロールは構造的に複雑な生体物質でアセチルCoAから生合成されるが、生合成は一つの反応だけで済むのではなく、多くの反応が関係し、各中間物質を経てリレー様式で合成される。それらの反応には多数の酵素タンパクが介在し、まるで設計図に従うように各反応を先導し、コレステロールを一極集中的に一気呵成に組み立ててゆく。この場合の酵素タンパクは、それぞれの反応を触媒することは勿論、あたかもこの連続反応を手引きし、中間物質をつなぎとめて拡散させないという接着剤としての側面も持っているのではないかと考えられる。