11.原始細胞での新しい遺伝装置の創生―DNAの自己複製の原理の萌芽
生命誕生の最大のイベントの一つとして考えられるのが、原始前生物環境でつくられた多様な短鎖ペプチド複合体のようなタンパク性物質の遺伝情報が、原始袋を経て原始細胞にどのようにして伝達され、収納されたかである。さらに、原始前生物環境の後半になると遺伝情報が多量になり、多量の容量の遺伝情報を収納でき、これまでのものとは全く異なる遺伝装置を緊急につくる必要性が生じたと考えられる。結果として、遺伝情報の収納だけをおこなう専門性の高いDNA分子が触媒性短鎖ペプチド複合体により創生され、それによって厖大な遺伝情報の処理が可能になったと考えられる。DNAに、タンパク質の遺伝情報を単位として収納したものを遺伝子と呼ぶが、この遺伝子を次世代に伝達したり、さらに必要な遺伝子の情報からタンパク質をつくる革新的な遺伝装置をどのようにして創生したかについて考えてみたい。
私が生命の誕生の原動力と考えている短鎖ペプチドは、原始前生物環境において稀有な擬態思想をもつ。即ち、短鎖ペプチドはその本性の一つとして、自然生成の時から自律的に同じものを創るという意図性をもって創生され、これによってタンパク性物質の触媒機能や複製機能が創生された。ひいてその本性が、遥か後に、効率的に厖大な量の遺伝情報を複製するDNAの創生の契機になったと推定している。
原始前生物環境では、短鎖ペプチド構造体の遺伝情報を高分子核酸の関与がない機構で複製し、それにより”個別短鎖ペプチド複合体獲得装置(仮称)“で固有の短鎖ペプチド複合体を形成していたと考えている。しかし、次第にこのタンパク性物質の情報量が多量になり、さらに、原始前生物環境の後期もしくは原始細胞の創生時までに、短鎖ペプチド複合体に会合していた短鎖ペプチド構成体がはるかに長い鎖になってしまい、鋳型的多短鎖ペプチド複合体系の能力ではもはや処理できなくなったことなどが重なり、厖大な遺伝情報を処理できる革新的な遺伝装置の創生の必要性が高まったと考えられる。
このような背景もあり、DNAやRNAが関与する遺伝情報処理システムが組み立てられ、中でも、DNA鎖は遺伝情報の収納庫としての意図性をもって出現したと考えられる。DNA鎖は一本の長い鎖であるタンパク質の遺伝情報を数千から数万種類を収納することができ、鋳型的多短鎖ペプチド鎖複合体の収納機構とは比較ができないほどの厖大な情報収納能力をもっている。一本の長い原始タンパク質が形成されるのは、すでに新しい遺伝情報が遺伝子としてDNA鎖に収納され、その遺伝情報によりタンパク質がつくられる原始的なタンパク質発現機構が存在した時期と考えられる。
DNAが、何故このような厖大な情報を収納することができるのか、またその情報からRNAの関与のもとでタンパク質を発現できるのかについて考える前に、核酸の構造について簡単に触れておく。