33.短鎖ペプチド複合体と天然タンパク質

 短鎖ペプチド複合体の複製の第一段階は、すべての短鎖ペプチド複合体形成に共通してもちいられる、一定の多様な短鎖ペプチド構成体の生成と蓄積であった。第二段階は、それらの短鎖ペプチド構成体の会合による配置が極小エネルギー則に従って進行し、自律的に固有の立体構造をもつ複合体構造を形成するための、「個別短鎖ペプチド複合体獲得装置(仮称)」の存在にあると考えられる。この形成過程は、天然タンパク質の構造形成にほぼ共通すると考えている。即ち、天然タンパク質の形成においては、第一段階に固有のタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列が転写され、リボソームを介して新生ポリペプチド鎖が生合成される。そして第二段階で、この新生ポリペプチド鎖の一次構造が自動的に折り畳まれて、最終的に固有のタンパク質の立体構造が形成されるのである。
 

 第一段階の重要性

 ただし、両者では共通しない部分もある。第一段階で、短鎖ペプチド複合体は個々の短鎖ペプチド構成体によって構成されるが、天然タンパク質では特定のタンパク質をコードする遺伝子の情報がリボソームを介し、一本鎖の長い新生ポリペプチド鎖が生合成される。また、第二段階で、短鎖ペプチド複合体は短鎖の構成体が自律的な固有の配置と会合様式で複合体構造を形成するのに対し、新生ポリペプチドでは自律的な固有の長い鎖が折り畳まれるという違いがある。従って、真の意味で同じものを模して作るという複製の対象になるのは、短鎖ペプチド複合体では第一段階の短鎖ペプチド構成体の形成であり、タンパク質では同じく第一段階の新生ポリペプチド鎖の生合成であると考える。

 繰り返し述べるが、短鎖ペプチド複合体の場合、実質的な複製は第一段階の短鎖ペプチド構成体を如何にして複製するかにかかっていると考えている。言い換えれば、タンパク質の原型である短鎖ペプチド複合体の複製においては、アミノ酸数が数個から十数個のアミノ酸配列をもつ短鎖ペプチド構成体を、別の短鎖ペプチド複合体がその機能のみで複製しさえすればよいことになる。そして、その後の形成は「個別短鎖ペプチド複合体獲得装置(仮称)」で自動的に進行すると考えられる。

 では、果たしてそのような短鎖ペプチド構成体の複製が可能であったろうか。最小限度の短鎖ペプチド構成体を自力で複製できれば、短鎖ペプチド複合体構造の全体の複製が可能になるが故に、ペプチド構成体の種類を一定にし、最小限に抑えることが経済的にどうしても有利になってくる。そのため、構成体の種類の選抜が徹底しておこなわれたと考えられる。構成体が最小限に抑えられ、複合体の構造のいろいろなところに使用されると、構成体全体の利用頻度が相対的に高くなり、遂には需要と供給のバランスが崩れ、供給不足の状態に陥る。その結果、各種の短鎖ペプチド構成体を一定量、自力で蓄積しておかなければならない事態が生じるようになったと考えられる。この状況下では、短鎖ペプチド構成体の供給を偶然的な自然生成のみに依存することは、困難になったに違いない。

 以上のような事情から、短鎖ペプチド複合体の全体の複製の前提として、どうしてもアミノ酸が数個から十数個の短鎖ペプチド構成体の複製について考えなければならない段階がきたようである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です