28.シトクロムP-450

 結合特異性を獲得する過程

ここではタンパク質の分子進化について、思いついたままに述べることにする。繰り返すが、短鎖ペプチドがある物質と結合する場合、最初は多数の結合特異性の低い短鎖ペプチドが結合するが、次第にこれらの中から親和力の高いものが選ばれ、数少ないものに収束していったと考えられる。しかし、この化学的な結合だけでは唯一の物質と結合するという最も高い結合特異性の獲得は困難であり、化学的に適合した複合体が物質の形を認識し、その形にぴったり合うように柔軟に構造を変え、唯一の物質と結合するという結合特異性の最も高い状態が獲得されたと考えられる。その過程を示唆する実例を、現存する酵素タンパクであるシトクロムP-450の構造でみることができる。

 シトクロムP-450

シトクロムP-450は、基質特異性が低く数種から数十種類の基質に作用し、広範囲の外来化学物質の無毒化や、体内の生理機能にも関与しているといわれている。この酵素タンパクは、基質特異性を著しく低くするために個々の基質の形をあまり重視せず、非共有結合のみであったと考えられる。即ち、P-450の活性部位の基質結合部位は、特定の基質のかたちのみに適応するように設定せず、多くの基質と化学的に結合できるような表層構造になっているのだ。

このことから推察すると、原始前生物環境の初期の短鎖ペプチド鎖複合体の結合部位は化学的結合のみで特異性が低かったのではないだろうか。そこに擬態思想によって生じる短鎖ペプチド鎖複合体の相補的構造変化が加わり、高い特異性を獲得したのではないかと考えられる。いわば既存のシトクロムP-450は“先祖返り”現象の結果ではないかと考えている。

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