18.“個別短鎖ペプチド複合体獲得装置(仮称)”
獲得装置の創成
短鎖ペプチド複合体構造が一旦形成され有利な機能が獲得されると、それを絶えず再生産できるような機構がどうしても必要になってくる。私は、多様でそれぞれ固有の構造と機能をもつ短鎖ペプチド複合体が、試行錯誤の末に創生された場合、どの種類の短鎖ペプチド構成体がどのような配置をしたらどのような構造になり、それがどのような機能をもつかという独自の情報を、自らの構造の中に記憶していたに違いないと考えている。つまり、そのような構築方法を記憶し、それを必要な時に再生産できるような”個別短鎖ペプチド複合体獲得装置(仮称)”を創生していたのではないかと考えた。この名称は私の造語であり、略して”獲得装置“とした。これは我ながら荒唐無稽の考えだと思っているが、現存のタンパク質生合成の場であるリボソームを連想してもらえればよい。即ち、一個の”獲得装置“がたくさんの個別の短鎖ペプチド鎖複合体の創生情報を共有し、厖大な記憶装置となっているのである。新規の短鎖ペプチド複合体の創生は、その構築に必要な材料と情報を”獲得装置”にインプットし、“獲得装置”内で蓄積されている過去の情報を駆使することで可能であると考える。
余談であるが、私は、原始前生物環境で短鎖ペプチド複合体の時代が長く続いたと考えている。タンパク質のように一本の長い鎖よりも、会合による複合体構造のほうが有利なのは、複合体と会合しているペプチド構成体が、他の構成体と絶えまない交換が比較的容易で、この交換によって複合体の分子内部が緊密になり安定した巨大複合体構造が構築される可能性が拡大し、同時に先に述べたように機能獲得でも有利にはたらくと思われる。そしてそれよりも、”獲得装置”での短鎖ペプチド複合体の再生産が円滑に進行すると考えているからである。
短鎖ペプチド構成体をブロックに例える
私がリボソームの原型と仮定しているこの“獲得装置”で、短鎖ペプチド構成体を積み木細工のブロックとみなすと、ブロックは千に近い数百の種類が準備されていることになる。十数個から数十個の積み木ブロックから巨大な固有短鎖ペプチド鎖複合体が構築され、種々の構成体の組み合わせ次第では膨大な種類の複合体の構築が可能になると考えられる。また現存の細胞で、新規の天然タンパク質を創生する場合にも、この積み木ブロックが利用されていると考えている。このことについては後述する。
ここで、この積み木ブロックを、短鎖ペプチドの代わりに20種のアミノ酸単体に置き換えて考えてみよう。その組み合わせは天文学的な数以上にのぼり、それが天然タンパク質構造になるかるかどうかを点検するには莫大な時間がかかり、収拾がつかなくなり非効率である。それが短鎖ペプチド構成体のような天然タンパク質を形成する可能性のある有効な積み木細工を予め用意しておけば、天然タンパク質構造を形成する確率は遥かに高くなり、点検する時間もはるかに軽減されると考えられる。自然は最初からアミノ酸単位で組み合わさせるような無駄なことは決してしなかったのである。