16.短鎖ペプチドの二段階分子進化
次に、短鎖ペプチドの分子進化は二段階にわたっているという私の考えについて、述べてみたい。短鎖ペプチド複合体の複製については後述するが、その際、自然は経済的観点から短鎖ペプチドを最小限の種類に制限する必要があったと考えている。そのため、同一のペプチドであっても、その遷移状態の複数の揺らぎ構造さえ利用してしまうほどの徹底ぶりが想像できる。
進化の過程
第一段階の短鎖ペプチド生成は、原始地球の自然環境で無作為に雑多に生成したもので、その多数の短鎖ペプチドの中には、他の物質や他の短鎖ペプチドと結合できないもの、特に複合体形成に適さないものも多数あったに違いなく、有効なものとそうでないものが混在した状態であったと考えられる。第二段階では、第一段階の混在した多数の自然生成された短鎖ペプチドの中から、複合体の形成に適さないものは淘汰され、たとえ有効であっても類似したものを排除しながら、経済性から最小限の種類の短鎖ペプチドに収束したものと考えている。天然タンパク質の原型である短鎖ペプチド複合体は、この第二段階の最小限の有効な短鎖ペプチドで構成されたものであり、私の「短鎖ペプチド起源説」の基盤となっている。即ち、天然タンパク質の一次構造は、基本的にアミノ酸残基数が数個から十数個の有効な短鎖ペプチドが連結された長い鎖の集積体が起源となるのである。同時に、同じ短鎖ペプチドのアミノ酸配列が天然タンパク質の局部構造を構成する場合、複数の異なる二次構造を構成する場合があることが見出されている(参考文献:Tonegawa, S.:Somatic generation of antibody diversity. Nature 302, 575-581 (1983))。
また、アスパラギン酸とグルタミン酸のように、アミノ酸残基が同じような性質をもつ残基で置換している類似の配列の場合でもあてはまる。つまり同じような配列が、多くのタンパク質で複数の異なる構造に使用されていることは、一つの有効なアミノ酸配列が相対的に利用頻度が高くなり、従って有効な配列の種類は予想されるよりも少なくて済むことになる。
このことから、天然タンパク質構の原型である短鎖ペプチド複合体の構築に利用される、最低限の短鎖ペプチドの種類はどのくらいになるかを考えてみた。それはせいぜい千種に近い数百種であろうと、私は考える。この僅か千種類に近い短鎖ペプチドが十数個から数十個会合すると、巨大なタンパク質レベルの短鎖ペプチド複合体が構築され、その組み合わせしだいでは無尽蔵ともいえる種類の複合体を形成することが可能であろう。よって、これまで地球上に現存したすべてのタンパク質を形成することも、将来出現する厖大な種類のタンパク質に対処することができると考えられる。
一方、短鎖ペプチドが最小限に制限しなければならなかったのは、その要因の一つが短鎖ペプチドの複製にあったと考えている。このことについては、短鎖ペプチドの複製の項で述べることにする。この数百種類になった最小限の短鎖ペプチド鎖を“短鎖ペプチド構成体”と呼ぶことにする。この短鎖ペプチド構成体の種類があれば、それまで存在したあらゆる短鎖ペプチドの複合体はもちろん、将来に新規に創生する複合体にも充分対応が可能であったと考えている。