15.モチーフ配列

ここで、もう一度短鎖ペプチドに立ち戻って考えてみよう。例えば、タンパク質が対象物質と結合する場合、生物種間でその結合部位のアミノ酸残基がほぼ同じで厳しく保存されている配列領域がある。この保存されたアミノ酸配列はモチーフ配列とよばれることもあるが、そのアミノ酸残基は数個から十数個というように、短鎖ペプチドと同じような長さになっている場合が圧倒的に多いことに注目したい。そして、これも短鎖ペプチドが機能単位の一部を担っていることの根拠になるのではないかと考えている。

 二つのモチーフ配列

その例として、RNA 結合タンパク質(RBP)について考えてみよう。このRNA結合ドメインの一次構造の中央部に、著しくアミノ酸配列が保存されている二つの領域(RNP1とRNP2)が存在する。二つのモチーフ配列は短鎖ペプチドと同じような長さの、それぞれ8残基と6残基のアミノ酸配列をもっているため、これらは原始前生物環境もしくは細胞発生時に出現したRNAと考えられる。つまり、この二つのモチーフ配列と類似したアミノ酸配列をもつ短鎖ペプチドがRNA分子との結合に選ばれ、それが現在まで保存されていると考えていいのではないか。

ちなみに、生物種間のRNA結合ドメインのアミノ酸配列の比較では、その結合モチーフ配列の相同性が高く保存されているにもかかわらず、またドメインの立体構造が類似しているにもかかわらず、ドメイン全体のアミノ酸配列の相同性が20%以下と著しく低い特徴がみられる。このことから、RNAと結合する短鎖ペプチドにおいてアミノ酸配列は厳格に保存されているが、それ以外の結合にあまり関与しないアミノ酸配列の相同性は低いことが予想される。即ち、RNA結合ドメインのアミノ酸配列で結合モチーフ以外のアミノ酸配列は異なっているが、立体構造は維持されていると考えられるのである。アミノ酸配列が異なる多くのペプチド集積体で構築されるRNA結合ドメインの立体構造が類似していることは、立体構造にはわずかなアミノ酸残基のみが必要で、このようなわずかなアミノ酸残基で立体構造を同じくするという難解なパズルを解きながら、分子進化したことが推測される。

酵素タンパクは、抗体タンパク質のように抗原と結合するだけの機能とは異なり、基質と結合し、さらに基質の化学反応を触媒し、その生成物が基質の構造とは異なることになることで、結合部位から解離し、新たな基質との再結合が促進される。このように、基質の交換が繰り返されるのも、擬態思想の結果であり、何回でも自律的に再利用できる物質はタンパク質以外には全く存在しない。

生体のあらゆる機能にタンパク質が使用されているのは、このタンパク質のみが構造的本性である擬態思想をもっているのにほかならず、タンパク質以外の物質にはこのような離れ業はできない。

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