14.疑似思想からみた抗体タンパク

 結合特異性が高まる仕組み

次に、このような遺伝子の断片化思想で生成された抗体タンパクが、最初は対象抗原と低い特異性であるにもかかわらず次第に高い結合特異性を示すようになる理由を、先ほど述べた擬態思想の観点から考えてみたい。抗体タンパクは軽鎖と重鎖から構成され、抗原と結合する領域は可変領域、特にアミノ酸配列が著しく変化する三つの部位を超可変領域または相補性決定領域とよばれ、これらは抗原結合部位を形成する。この相補性決定領域は、免疫グロブリンドメインを構成する二つのβ-シートを結ぶ ループ構造に位置している。短鎖ペプチドレベルの長さのこのループ構造が抗原と衝突を繰り返すことにより、結合部位のループ構造の立体構造が微妙に変わり、次第に抗原との結合特異性が著しく高くなるのである。

構造の大きさが異なる抗原それぞれに適合する抗体タンパクの相補性決定領域の表面構造は、小さい抗原ではぴったり入る窪みを形成し、棒状のものでは溝型になり、大きいものは平面になるなど、抗原のかたちに適合して独自の表面構造をとっている。そのため、ループ構造は抗原のかたちに柔軟に対応するのに適していると考えられる。遺伝子の再編成で生成された直後の抗体タンパクは荒削りの不完全な原石にすぎず、結合特異性が相対的に低いと考えられる。そのため、それが完全な抗体タンパクとして働くためには、抗体タンパクを大量に生産するB細胞が抗原と絶えず接触する過程において、抗原結合部位の相補性決定領域のループ構造のかたちと抗原のかたちとが、ぴったりと相補的に結合しなければならない。また同時に、そのループのアミノ酸残基の側鎖が抗原の反応基とがぴったりと結合する必要もあり、それができてはじめて結合特異性が最も高い抗体タンパクとして働くのである。

断片化思想で生産された直後の抗体タンパクは、抗原抗体反応のためにはまだ構造的に不完全であり、繰り返し抗原と接触することで、結合相手の抗原のかたちや大きさ、そして化学的特性などを認識し、自らの結合部位の構造を巧みに変化させながら柔軟に適応するする擬態思想を伴っている。私は分断思想と擬態思想は相互に影響しながら、タンパク質構造を形成していくと考えている。

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