7.短鎖ペプチド鎖の結合能
短鎖ペプチドの重要な機能の一つは、他の短鎖ペプチドや多くの有機物質と特殊な結合する能力をもつであろうということである。この結合能力こそが、私が短鎖ペプチドが生命を誕生させた原動力の根拠になっているのである。そこで、この短鎖ペプチドの結合能について、しばらく述べることにする。
短鎖ペプチドに備わる「特殊な結合能」
どのような物質でも単独で存在することはなく、絶えず周りの物質と結合して相互に影響し合っている。原始地球環境では、鉱物や粘土土壌などの無機物質が地表を覆い、それらの構成物質が相互に関連しあいながら、多様な構造形態をとっていたと考えられる。では、そういう原始地球環境に短鎖ペプチドが出現して、有機物質と結合することが無機物質同士が結合することと、何が根本的に異なり、生命誕生を先導する根拠になったのであろう。無機物質同士の結合の場合は結合する条件があれば、ある程度制限がなく結合したと考えられる。一方、短鎖ペプチドと他の物質との結合の特徴は、自律的で選択性が高いことである。即ち、短鎖ペプチドは結合相手を自らが選択する能力を持っており、結合の条件が合えばスムーズに結合するが、合わなれば全く結合しないという特殊な結合能を持つことである。それを保証しているのは、短鎖ペプチドを構成するアミノ酸残基が自律的に結合対象物質の反応基との間に特殊な化学結合をするばかりでなく、私が最も重要と考える、対象物質の構造(かたち)に適合するため自らの構造(かたち)を積極的に変えることにある。このように、適応するために自律的にかたちを変えるという性質は、無機物質やその他の有機物質とは決定的に異なる点であると考える。
ペプチドは、ペプチド結合に要する自由エネルギーがさほど高くなく、合成や分解が容易であるなど環境に対する適応性が高いことから、分子的基盤となったと考えられる。こういう優位性を備えた短鎖ペプチドが結合相手の物質のかたちに適合するように、いくつかの可能なかたちの中から選択し、自らのかたちを巧みに変えながら相補的な結合を行い、自分の取り巻く環境に積極的に能動的に適合していることは注目に値するだろう。何故、ペプチドが対象物質の反応基と特殊な化学結合ができるのか、と同時にその構造(かたち)に適応するように、自らのかたちを変えてまで相補的に結合しなければならないのか、その原理を考えてみよう。まず最初に、物質の分子間にはたらく基本的な結合形態に、どのようなものがあるかを、ペプチドやタンパク質の構造でみてみよう。