4.原始地球環境での有機物、特にアミノ酸類の出現

「原子前生物環境」の定義

はじめに、本書に頻繁に登場する「原始前生物環境」という言葉は、大雑把に原始地球の自然環境条件下で有機物質が出現してから生命誕生に至る時間経過を意味するものである。地球誕生から原始前生物環境を経て生命誕生までの経過に要した時間は、数億から十数億年だといわれている。この原始前生物環境の初期に多様な有機物質がどのように生成されたかについては、ユリーとミラーの有名な原始地球の大気環境を想定した放電実験モデルで知ることができる。

重要なことは、その実験で生成された有機物質の中に各種のアミノ酸類が含まれていたことである。アミノ酸は安定な物質で、構造的には同一分子内にアミノ基とカルボキシル基をもつ両性電解質で、さらに分子内に側鎖とよばれる物理化学的性質の異なるグループが存在する独自の構造を持つ。原始前生物環境で比較的簡単なアミノ酸は自然合成されたが、その種類は現存するタンパク質を構成するアミノ酸よりも少なかったといわれている。アルギニンやトリプトファンのような複雑な構造をもつアミノ酸は、その後の触媒性タンパク様物質の存在で合成され、タンパク質の微妙な構造構築や高度な機能の要求度に応じて生成されたものであると考えられる。

しかし、ミラーの有機物質合成の実証実験はすべての人に認められているが、自然生成されたアミノ酸類から原始タンパク様物質がどのような過程で創生され多様化したかについての研究は、あまり充分には行われてこなかった。「直接的高分子生成説」でのミクロスフェアの生成などの例がある程度である。その理由としては、先に述べたように、「RNAワールド」仮説などでRNAやDNAなどの核酸が過度に重要視された結果、タンパク質創生とその後の分子進化の研究課題は、基本的に核酸から構成される遺伝装置が生命誕生時にどのような過程で形成したかを解明すれば解決できるのではないか、という考えが先行したことが一因であったと推測する。

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