19.タンパク質の折り畳み機構  

Anfinsenドグマには、「天然タンパク質の一次構造は高次構造形成をかなりの程度まで自律的に規定する情報をもっている」とある。このドグマに従えば、天然タンパク質であるかどうかは、可逆的に折り畳みがおきるかどうかを確認すればよいことになる。私がこの折り畳みの存在をはじめて知ったのは、Anfinsenらがノーベル化学賞を受賞した少し前頃であった。この不思議な現象について私なりに述べてみたい。

本題に入る前に、天然タンパク質の構造をヒントに短鎖ペプチド複合体の構造を考えてみたい。すべての天然タンパク質は共通して最小単位のαーへリックス、βーシートやループ構造などの二次構造をもっている。タンパク質として固有の構造を規定できるようになるのは、各種の二次構造が数個連結し、個別の幾何学的配置で生じるモチーフ構造や超二次構造(super fold)と呼ばれる構造が形成されるときからである。モチーフ配列自体は短いものであり、特定の物質と結合する機能をもつ場合もあり、またモチーフ同士が結合し、より複雑な構造体になるときもある。

 モチーフ配列と短鎖ペプチドの共通性

私には、タンパク質構造に散在するこれらのモチーフ配列が、原始地球環境のアミノ酸残基が数個から十数個の短鎖ペプチドのイメージとオバーラップするのでのである。もしモチーフの構造や機能に短鎖ペプチドとある程度の共通性があるとすれば、モチーフ配列を通じて原始的な短鎖ペプチドを垣間見ることができるのではないか考えている。

以上のように、天然タンパク質の長い一次構造は、たくさんの短いアミノ酸配列であるモチーフ配列が多く散在する集積体で、固有の立体構造形成の基盤となっていると思われる。原始地球環境で短鎖ペプチド複合体が形成するときも、天然タンパク質がモチーフのアミノ酸配列が折り畳まれていくように、短鎖ペプチドがある程度自律的に会合して複合体の構造を形成したと考えられ、短鎖ペプチド複合体から分子進化したタンパク質の一次構造は、いわば積木細工のブロックのような多数の短鎖のペプチドが寄せ集められた集積体であると考えられる。どうして、ペプチドが長くなると固有の立体構造が形成されるかは、先に述べたように、ペプチドが長くなるに従いエネルギー則でペプチド結合の回転が厳しく制限されるようになり、さらにタンパク質のように長い鎖になると回転が全く固定され、極小の自由エネルギーをもつ高次構造で安定化するからであろう。

一次構造がタンパク質に折り畳まれていくように、短鎖ペプチド構成体は次々と他の短鎖ペプチド構成体と最小エネルギー則に従って会合を繰り返し、最小のエネルギー側に従って大きな固有な複合体構造が形成されたと考えられる。一旦、自律的に固有の複合体構造が形成されると、それが再生産の必要性がある複合体と認識され、先に述べた”個別的短鎖ぺプチド複合体獲得装置”のような装置に共有され、必要に応じて構築記憶をたどりながら、自律的な形成が行われたと考えている。このように、原始地球環境の短鎖ペプチド複合体の構築原理が、後の生命誕生時に進化した原始的な天然タンパク質の立体構造の構築原理に踏襲されたのではないかと思っている。

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